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ファンタジア


 

 クリスマスに行きたいのは石垣島です。砂浜に寝そべって日差しを浴びて、ヤシの木を下から眺めていたい。

 逆にクリスマスに最も行きたくないのはディズニーランドで、毒々しい光が満ちていて、大群衆に囲まれ、ネズミのぬいぐるみがにたにた笑って立っていたら、僕は発狂しかねない。

 行けば楽しい、とみんな言う。たぶんそうなのだろう。実際、遊園地に対しては愉快な思い出を持っている。インドにも移動遊園地があった。田舎を転々と巡回する怪しげなやつだ。詐欺みたいな演目で観客をだまし、搾れるだけ搾り取ったらさっさと逃げる。その極致は見世物小屋で、おもての看板には殺人鬼がいて、美女がいて、ライオンにのった魔導士がいる。ぜんぶ嘘だ。ちっちゃいインド人とでかいインド人のコンビが漫才をする。おばちゃんが踊る。猿がブランコにのり、上からおしっこをひっかける。

 ヒンドゥー教のお寺にはアトラクション的な要素がある。南インドの山のてっぺんに巨大寺院があり、ご本尊へたどり着くまでに8時間くらい並ばなきゃいけない。外国人は入場料を徴収され、その代わり真ん中あたり、あと4時間くらいのとこへ入れてもらえる。金網で仕切られた柵のなかをぐるぐると旋回し、立ち止まっては歩きだし、また立ち止まる。待ってる間にトイレへ行きたくなる。係員に事情を説明し、また並ばせてもらう。そしてようやくご本尊へたどり着くのだが、3秒くらいしか拝めない。後ろから行列が押す。信者たちは地面にひれ伏して祈願するけれど、棒を持った係員が行け、行け、と追い立てる。あとがつかえてんだよこら。利己的になってんじゃねえ。ばん、と棒で地面を叩く。

 北インドの山岳地帯にもありがたいお寺がある。山頂まで5時間くらいかけて石段をのぼっていく。途中で猿に襲撃される。インドでは猿は聖獣である。人によってはわざわざ猿に食物を捧げる。おかげで猿は調子にのっており、巡礼者が携えるお供え物を当然のごとくかっぱらう。長い参道だから女性や子どもが孤立してしまう。そういうところを狙い、石段の上下左右を包囲して、歯をむき出しにして威嚇する。普通の人はひいい、と悲鳴をあげてフルーツやお団子をまき散らす。僕を救ってくれたのは一匹の犬だ。どこからともなく現れて、あちこち走り回って猿の群れを追っ払う。安全圏へ脱出するまで付き添ってくれる。黒い雑種犬だ。毛はぼさぼさで、みすぼらしい。見たところ若くはない。推定年齢15歳。僕はそいつを撫でてやる。

 お前は神の化身だよ。

 わん、と犬は吠える。

 お前を日本に連れ帰ってやりたいよ。

 犬は嬉しそうに尻尾を振る。

 飛行機のれるか?

 うん、と犬はうなずく。

 よし。一緒に行こう。

 山頂へ向かって歩いていく。神の化身はあちこち匂いをかぎ、そこらじゅうにマーキングする。首筋をぽりぽりかき、蝶を追いかけてどこかへ消えてしまう。



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