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チャイ、カーノムジーン



 私が気になってしょうがないのはインドのチャイ屋のおじさんや、タイの市場でカーノムジーン売ってるおばちゃんで、彼らは生きていけるんだろうか。純真な笑顔が消えているのではなかろうか。  インドにはチャイ屋がたくさんある。日本の自動販売機と同じくらいの密度でチャイ屋さんがある。一杯10ルピー(15円)とかで一口サイズのミルクティを淹れてくれる。率直に言ってインドは地獄なので、チャイ屋さんは街角におけるオアシス、約束された慰安であり、誰もがふっと一息つける場所となる。神様だってそこに憩うに違いない。いつも淹れたてのチャイを出してくれる。熱く、甘くて、すごく濃い。一軒一軒、微妙に味わいが異なる。芸術的な完成度に至る場合もある。カルダモンだろうか。ミルクの濃さだろうか。いや、店主の人柄である。たまに、ほんとにいい人がいるのです。インド人にもいい人がいるのです。気持ちがささくれたときなんか、その優しさに触れただけで、目が潤んでしまう。  カーノムジーンというのはタイ風のそうめんで、辛いのや甘いのや、まずはスープを選び、あとは自分の好みで生野菜を加えて食べる。この生野菜がなんと食べ放題なのである。キュウリ、キャベツ、パクチー、インゲンマメみたいなの、もやし、高菜みたいなやつ、そのほか現地で収穫される謎の野菜、いくら食べても構わない。食べ過ぎると下痢になるらしい。僕はあたったことがない。たぶん胃は強いのだろう。旅行中は野菜不足になりがちなので、カーノムジーンは野菜好きには享楽と化す。だいたい30バーツ(100円)とか。僕は肉は要らないけど野菜を食べないと死ぬ、という人間なので(牛か馬なので)、長期滞在するような街になると行きつけのカーノムジーン店を確保し、昼はそこで食べるのが日課になる。野菜を扱う商売だからか知らないけど、草食系の、おっとりしたタイ人が経営している場合が多い。みんなにこにこ。タイの人々は基本的ににこにこしているけど、カーノムジーンのお店は特別に。また来ちゃいました。今日も甘いスープでいいです。辛いやつはほんまに辛いんです。辛すぎてお腹壊してしまいます。なんとなくスープおまけしてくれている感じですね。なのに野菜たくさん食べちゃって申し訳ありませんね。いえ、そんな笑顔、わたしにはもったいないです。  彼らの優しさは海のように深く、空のように無限なので、本来の意味でのヨガの境地に達していると思われる。街角における聖人だ。人格とか肉体とか、現世に属する有限なものは消えていて、そこには神意さえ読み取れる。世界の本質は愛であり、怒りや悲しみはいっときの迷いに過ぎない。



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