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アホ学生



 知り合いのご夫婦とマグロのひとしに行く。隣のテーブルで大騒ぎしている。あまりにうるさくて、こちらのテーブルじゃ話もできない。知り合いの方は「ここ高田馬場みたいだよな」と言う。僕はその意味がよくわかる。高田馬場にはワセダのアホ学生がたくさんいる。僕もアホ軍団の一員でした。がくせい注目! なんだー。

 ワセダのアホ学生はあまりにアホなので、入学したら酒の飲み方を教わる。というか身をもって学ぶ。ビール瓶からラッパ飲みするときは、瓶の口に上唇をさしこむとよい。瓶のなかへ空気が入る隙間ができ、中身がスムーズに出てくれる。時間の短縮になるし、一定に流れ続けるのでむせない。瓶をくわえこんじゃうと、どぼん、どぼん、と出てきて吐いてしまう。

 ワセダのアホ学生はあまりにアホなので、吐いてしまうと「粗相!」の大合唱が起こる。もう一本飲まなきゃいけない。二本目はきついし、三本目はもっときつい。人体がどれほどのビールを摂取できるのか、目をみはるものがある。しかしおのずと限界はある。戦線を離脱するしかない。そうやって男たちは死闘に明け暮れる(女の子は許してもらえる)。一次会で顔が紅潮し、二次会は声が涸れる。三次会は半分意識がない。トイレの前には死体の山が累々と積み重なる。マグロの競り市みたいだ。

 ワセダのアホ学生はあまりにアホなので、意識不明の重体に陥っても、必ず誰かが「先輩の家」に運んでくれる。いついかなるときでも「先輩の家」が存在する。たぶん今でもあるのだろう。西早稲田の裏路地にある木造のアパートで、ちょっと揺れたら崩壊しそうな感じだ。トイレ・キッチン共同、風呂なし、家賃2万円。日当たりは悪く、なかはカビ臭くて、畳はぐっしょり湿っている。歩いただけで足の裏に湿疹が出てくる。隣室との壁は薄く、小声でささやくように話さないといけない。日曜の朝、午前6時。二日酔い。寝不足。青白い顔の男たちがひしめきあう。戦争に倦み疲れた兵士みたいだ。しゃべる元気もない。誰かがぼそっと言う。「日本酒あるよ」。誰も返事しない。



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