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マラソン出ますか


 石垣島マラソンには出ないんですか?  出ません。主義として競争には参加できません。呼吸も乱したくありません。人混みは苦手だし、まわりと同じ行為を延々と続けていると、いたたまれない気持ちになります。だったら一人で脇道を探索しているほうがいい。誰も知らない道を歩き、誰も知らない美を発見していたい。誰にも見られず、誰からも応援されず。自慢にもなりはしない。価値基準は自分自身のなかにしかない。そして一歩間違えると変人ができあがる。石みたいにカチカチの顔してすたすた歩いていく。みんなから嫌われる。「あのひと変よ」。自分がそうなってないか心配だけど、たぶん大丈夫なのだろう。今のところは。  ただ、ときどき不安になる。たとえば僕に友達はいない。話し相手は猫くらいだ。 「そういやさ」といっぴきの猫は言う。「マンタ食えるらしいで」 「あほか」 「噂で聞いたねん。炭火で焼くとうまいらしいで」 「嘘やろ」 「今度とってきてや」 「知らんわ」 「勝手にせえ」  以降、そいつは僕を無視する。僕は友達をまたしてもひとり失う。  僕は友達がいないので、よく本を読む。本ばかり読んでいるから友達ができないのかもしれない。居酒屋よりも図書館のほうが好きだし、新しい友達よりもスティーブン・キングや伊坂幸太郎の新作のほうが気になる。昔からそうだったのかというと、とんでもない。子どもの頃はまともで、少年野球でサードを守っておりました。勝ち負けにこだわり、小技よりも強振が得意でした。活発な児童で、はいと挙手をして、すすんで弱い者いじめに精をだしておりました。だめじゃん。  いつ頃から変貌を遂げたのかというと、たぶん小学6年生のときに失恋してからだ。辛酸をなめた。血まみれになった。心臓が真っ二つに裂けた。裂け目から知らない人間が出てきた。そいつは「どうも」と言って僕の中心に居座った。僕の声で話し、僕のふりをしているが、以前の僕ではない。確信しているのは、女性は残酷だということ。外見に騙されるとひどい目に遭うということ。  それで女性を避けるようになったかというと、どうもそうではない。むしろ女性に囲まれている気がする。そしてわたしは苦難の道を歩む。


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