みなさんにとって読書の秋かどうかは知らないけど、僕にとっては年じゅう読書週間みたいなもので、本が手元にないと生きていられない。別に自慢するわけじゃないけれど。人間を信用しないというだけです。本と付き合っているほうがいい。本に全幅の信頼を置くかというと、そうではなく、嘘ついてもすぐにわかる。真剣さの欠如というか、軽薄さというか、裏切られる前にこちらが見限るというか。人間を相手にしているとそうはいきません。ついつい知らないおじさんについていってしまい、いつのまにか居酒屋にいて、長話を延々と聞かされ、おだてられ、二人ともがぶ飲みし、トイレから戻るとおじさんは消えていて勘定書だけが残されている。そういう目に何度遭ったか。だから人間は信用しません。ってのは口だけで、ついつい甘い言葉に惑わされる。またしても痛い目に遭う。しばし本の世界へ逃避する。 最近読んでいて良かったのは宮澤賢治の「ねこの事務所」。かま猫の話です。思わず涙します。涙しながら笑っているのですが。このあたりの按排が天才的です。損はしません。ぜひご一読ください。あなたの心の中にもかま猫が棲むようになります。かま猫愛好家の諸氏となら、僕は仲良くなれそうな気がする。信頼して、安心しきって、裏切られる。 そういうもんだ。人付き合いなんて自分の思い通りにいくわけがない。それで人間嫌いに陥るというのなら、死ぬまで本だけを相手にしていればいい。しかしそれではつまらない。だから僕は裏切られるために街へ出る。ものすごく怪しいおっさんが声をかけてくる。