ときどきパンケーキを焼く。たいていはひとに見せられた代物ではないが、たまに上出来の作品が仕上がることがあり、そんなときは一人で悦に入りつつナイフで切っては口に入れ、キッチンで立ったまま1分で平らげる。食べたそばからまた焼き始める。しあわせ。パンケーキ食べ放題。子どもの頃はこれが夢でした。大人になるっていいですね。禁じられた快楽に身を投じる。焼きたて。ふっくら。たっぷりのバターにハチミツ。いくらでも食えるわい。5,6枚も食べるとパンケーキなんて見たくもなくなるのだけど。誰か要りませんかね。冷たくなったパンケーキ。 料理をするのはわりと好きで、不細工なものを不細工なやり方で作るだけなのだけど、適当にやっても何かしらできてしまうのがいい。気分転換に最適。ほとんど遊び。頭なんて使わない。失敗しても誰かに文句を言われるわけじゃない。自分で責任持って処理します。ときどき、こりゃきついぜ旦那、みたいな状況に陥るけど。初めて作ったパンケーキはひどかった。右も左もわからないまま、小麦粉と格闘し、うどんの種みたいな硬い塊をすりこぎでのばし、フライパンで焦げ付くまで焼く。あらゆる観点から見て失敗作。これはチャパティかね。 チャパティ。ご存知でしょうか。北インドの主食です。小麦粉と塩をこねて、薄く延ばして鉄板で焼いて、仕上げに直火で焙るとふっくらもちもちの薄焼きパンができます。カレーにとても合う。たいていのレストランにチャパティ専門の職人がいる。彼らは一生をチャパティ作りに捧げている。靴職人や楽器職人やミルクティ職人と同じく、彼らはその仕事に誇りを抱いており、朝に夕に技能の熟達に余念がない。間違っても、形を変えようとか、今日は気が向かんけん変わり種をつくったれ、とか、欧米式の邪道にうつつを抜かしたりとか、そんなこと考えもしない。王道たるインド式チャパティを何百枚と焼き続ける。完璧に同じ形。完璧に同じ味。その店に行けば必ず同じチャパティが出てくる。手作り、焼きたて。これだよ、これ、故郷に戻ってきたぜ、かくも長い歳月を経て、わたしは年老いて、あなたは変わらないまま。 たいていは4枚も食べるとお腹いっぱいになる。最高で15枚食べた。食パンを2袋食べるようなものです。ちょっと狂っていましたね。本物のチャパティにはひとを狂わせるものがあります。インドに行けばわかります。日々どこかしら狂っています。狂っているあいだは楽しいのだけど。