自慢するわけじゃないが、僕はまわりに合わせるのが苦手なので、台風のなか外をぶらついてくる。向かい風に逆らってさとうきび畑を抜けて、少年自然の家のあたりまで。猛烈な風が吹きすさぶ。外を出歩くひとなんていない。さとうきびだって根こそぎ吹き飛んでいる。上から枝が降ってくる。ツバメが低空飛行で滑空しているな、と思ったらごっつい木の実だった。あんなのに直撃されたらたまらない。 海の方へ折れる。今度は追い風。高く掲げた帆のように背中を押され、坂道をくだり、海まであっという間。そのまま海まで突っ込んじゃいそうな。 浜辺に座って台風の海を眺める。波濤と風がいい勝負。こういうとこで泳いだらどうなるんだろう。運が良くて風邪を引く。へたしたら溺れ死ぬ。どうしよう。 猫がすり寄ってくる。にゃああ。 僕は猫に弱い。しばし猫触り放題。やつはなされるがまま。こんなにひとを信用していいのかね。誘拐されちゃうぞ。とびっきりブサイクな猫なんだけど。尻尾はない。きんたまはでかい。 猫って自分の姿が見えませんからね。しあわせですね。おれってやばいよな、とか、死んだほうがいいよな、とか鬱々と沈み込むこともない。にゃああ。それで許されると思っている。 猫には猫なりの煩悶があるのかもしれないけど。体じゅう痒くて痒くてたまらなかったり。誰か掻いてくれ。そこのおまえ。足元に座ってやるからさ。そう、そこ。もうちょい下。いい感じ。おまえ名前なんて言うの。毎日来てよ。 毎日台風が来てたらね。いつもはヨガしなきゃならんのです。生徒さんの痒いところに届くような、くつろぎの時間を提供したいものです。