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夏の風物詩


 台風が過ぎ去る。台風が怖いから、石垣島に住むのはどうかな、って思ってたこともあったけど。でも実際はたいしたことない。うちでじっとして、過ぎ去るのを待っていればいい。何もする必要はない。放っておけば勝手にどこかへ消えてくれる。何かが起きたら何かが起きたで、そのときに対処するしかない。しかしよほど運が悪くない限り、あるいは冒涜的なふるまいでもしない限り(台風のなか外に出て「わたしを飛ばせ」と暴風雨に命じるとか)、台風はまっすぐに進むのに忙しくて、一人の人間なんて置き去りにして洋上へ抜けてしまう。  だからうちでゆっくりと、風が吹きすさぶ音を聴き、本を読み、うたた寝して、残り物のニンジンやジャガイモを使って料理をつくり、いつもは飲まないのにたまには飲むか、とビールを開けている。なんだ、台風って悪くないじゃん。もうだいぶ風もやんできたしね。今となっては寂しく思うくらい。非日常的な高揚感を味わわせてくれたんだな。たまにはこういうのもいい。うちのなかでビアフェス、みたいな。  びっくりしたのは星野商店が開いていたこと。市役所の前の地元系スーパーです。マックスバリュも閉まっていたのに、平常通り営業していなさる。見上げた根性。しかし買いに来る人はいるのかね。街はほとんどゴーストタウンと化しているというのに。僕は阿呆なのでお昼ごろ街の探検に出て、天然のシャワーを浴びながら『雨に唄えば』のジーン・ケリーみたいに鼻唄を歌い、風の音で耳が聞こえず、後ろから来た車に轢かれそうになっている。石垣島で唯一の怪我人になるところだった。  星野商店で買ったのは豆腐とビール。ずぶ濡れになってこの品を買いに来る。阿呆か天才か。


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