「一日に何時間もヨガやってよく飽きませんね」 たまには飽きます。そういうとき、自分がスルメみたいに感じます。しわしわで、干からびて、声をかけても反応しない。おーい、起きろー、出番だぞー。スルメはぴくりとも動かない。焙ってやるといいんでしょうね。徐々に反り返ってきます。ちりちりと焦げて香ばしい匂いがして、脂がのった感じに色づいてきたら食べごろです。しかし僕は偽物のスルメなので、焙り方にもコツがあります。お子様的好奇心を刺激するよう焙らないといけません。 ふてくされた坊やがいます。お姉ちゃんはアイスクリームを買ってもらったのに、自分は買ってもらえなかったからです。行状が悪いせいだとされました。理解に苦しみます。姉はただ甘えるのが上手なだけなのです。弟のぼくはいつも悪者にされてしまいます。姉はおでんで卵をふたつ食べます。ぼくが食べたせいにされました。姉はピーマンを食べません。ぼくは泣いても許してくれません。自転車は姉のお下がりでした。女物でした。こんなもの恥ずかしくて乗っていられません。だからぼくはいつもふてくされています。世のなか不公平です。そんなとき、天使がやってきて、坊やにささやくのです。 「楽して生きようと思ったら大間違いや。なめたらあかん。この世はじごくや。弱いもんは死ぬしかない。わしを見ろ」 天使にはひげが生えていたかもしれません。尻尾があり、毛むくじゃらで、いわゆる猫という物体に似ていたかもしれません。 「やかましい。猫やない。天才って言え。神でもええ。おまえら凡人とは住む世界が違うし、想像を絶する苦悩を抱えとる。こう、一点を見つめてるやろ、目が痛むねん。1分でもやってみ。しょぼしょぼになるで。2分たつとな、空間がちかちかしてきてな、えらいこっちゃ、電気や。電気がつきよった。電気は花火や。花火は爆発や。お祭りや」 坊やは目をきらきら輝かせて花火を見ています。彼ほど幸福な人間はいないでしょう。