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牛の頭突き、ガンジス川の細菌


 暑い日が続いているのかな。僕は気にならないけど。インド内陸部の暴力的な暑さに比べたら、こんなのぬるい。あちらじゃ「40℃」+「灼熱の太陽」+「インド人との果てしなき戦い」があったから。そりゃ頭もおかしくなる。オーバーヒートしてやかんみたいに湯気を吹き出す。たぶん脳味噌の中身が蒸発してた。牛の頭を撫でたりガンジス川で泳いだりする。それらがどれほど危険なことかわかっちゃいない。牛には突進されるし、わけのわからぬ細菌に体内への侵入を許してしまい、傷口が化膿してその後3か月間軟膏が手放せない。

 それでも楽しかったな。牛ってバナナの皮やマンゴーの種を食べるわけですよ。何十頭ってうろついている牛のなかからお気に入りの一頭を見つけて、ほら食えってバナナの皮を差し出す。そいつは貧弱な仔牛だから、バナナの皮の匂いを嗅いでいるうちに親牛に頭突きされてバナナの皮を横取りされる。ガンジス川を泳いでいるとサドゥーがやってくる。サドゥーってのは聖者のなりをした不道徳者で、「お前は何か欲しいだろ」と話しかけてきて、別に何もと答えると、「いやそんなわけはない。お前の欲しいものがおれにはわかっている」と薄汚い懐から取り出したまうは乾燥させた非合法の植物。

 楽しくなってくる。気温40℃の暑さで頭がやられているから。日々が修業。暑いなか舌がやけどしそうなミルクティを飲み、暑いなか唇が腫れあがるような激辛カレーを食べ、暑いなか全裸に近い恰好になって扇風機の風にあたり眠れぬ夜をすごす。ああ、頭はおかしくなる。インドだよ。さまざまな悪業によりて私はこの国へ導かれました。インドに来るなんて人間は少々頭がおかしいのです。悪いことは重なるもので、暑くて人が多すぎてカレーばかり食べ続けたせいで頭のたがが外れてしまい、ますます阿呆になってしまいました。こういうとき、ヨガは祈りにも似た行為だとわかります。頭をかためる。真剣にものを考える。外的な圧力を遮断し、精神を永劫不変のものへ昇華させる。それはつまり、街じゅうがサウナと化す熱帯夜にベッドに横たわり、停電で扇風機が止まってしまい、異様な熱気に包まれて全身を汗で濡らし、それでも「暑い」以外の物事を考えようとすること。本場でしか学べないことはたくさんある。


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